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アロイマーと岸野さん [映画]

宇仁菅書店の特別営業で見つけた一冊の本。

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猫好きの習性として、文字に「猫」とあるとつい反応してしまうのだが、実際はそれほど猫というキーワードで読書をしているわけではない。しかし、この時は映画に関する書籍で、しかもその著者は岸野令子さんだった。それは手にしないわけにはいかない。ページを繰っているうちに、20年前の記憶がよみがえってきた。

20年前、父が二度目の脳内出血で倒れ、入院している天神橋筋六丁目(天六)にある病院に通っていた。その頃は会社をやめたばかりで、次の職を得るまでのつなぎとして、16ミリフィルムのレンタルと映画会の興業を行う小さな会社でアルバイトをしていた。母も仕事が忙しく、交代で病院へ通って、父の衣類やタオルなどの洗濯物を取りに行くという毎日だった。父はもう動くことも話すこともできなくなっていた。

天六に通っていると、食事もその近辺で済ませることが多くなった。関西大学二部(夜間)の校舎の前に、小さなタイ料理店があった。学生時代に卒業旅行のトランジットで寄ったバンコクで食べた料理が忘れられず、それ以来、タイ料理は大好物なのだが、調味料や材料の仕入れが難しいのか、結構な値段がする。それでも「ちょっと高すぎるだろう」という不満が常にあって、そう頻繁にタイ料理は食べられなかったのだが、この店の価格設定はちょっと違っていた。

アロイマー(タイ語で「とてもおいしい」という意味)というそのタイ料理店は、Oさんという女性が切り盛りする小さなお店だった。Oさんご自身もOL時代にタイ料理にはまり、日本のタイ料理があまりにも高いことに不満を感じていらっしゃったようで、それならばとご自分でお店を始められたとお聞きした。とても感じのいいお店で料理も素晴らしく、そして値段も安かった。殺伐とした日々の中、アロイマーを訪ねると心が癒されたものだ。

ある日、仕事でお世話になっていた豊中市中央公民館の方から、市民向けに映画の連続講座を開きたいので講師を探しているという相談を受けた。そんなことをアロイマーのOさんに話しかけたところ、このお店に通っている方で、映画パブリシストの岸野さんという方がいらっしゃるということを教えてくださった。その頃はインターネットもない時代なので、その方についての情報を集めることができない。いろいろなつてで、少しだけ情報が入り、ぜひお会いしてみたいと思った。そして、アロイマーで岸野さんとお会いすることになった。

岸野さんはざっくばらんな話し方で接してくださり、初対面でも緊張することなく、映画についていろいろお話することができた。この時は、ジェーン・カンピオン監督の『ピアノ』や、『森の中の淑女たち』『北京好日』といった映画について楽しく話したのだが、やはりジェンダーの問題について考えることが多かったような気がする。特に『森の中の淑女たち』『北京好日』という対照的な映画をめぐって、『森の中の淑女たち』の女性たちが孤立しても互いにいたわりあうのに比べ、『北京好日』ではよく知っている者同士のはずの男性が集まって喧嘩を始めてしまう場面を比べ、感想を言い合ったのが面白かった。

幸いにも映画講座の講師を引き受けてくださり、一度だけ一回目の講座が終わった後に会場を訪れた。受講者は年配の人が多いとのことで、古い日本映画に焦点が当てられたようだったが、山田洋次監督の『男はつらいよ』の寅さんについての岸野さんの言及はちょっと不評だったようだ。いわく、「寅さんは童貞ではないか」というものだった。わたしはそれを知って、手を叩いて喜んだものだったが、多くの寅さんファンにはそのような言い方は不愉快極まりないものだったようだ。寅さん風に言うと「それを言っちゃあ、おしめえよ」だったのかもしれない。

その後、めでたく新しい仕事を得ることができて、しばらくは岸野さんにも職場の近況などをお伝えしていたのだが、そこをやめてからはすっかりご無沙汰している。今は映画と関係ない仕事をしていて、かつてあれほどたくさん見ていた映画もほとんど見なくなってしまった。それでも、根っこのところは変わっていないのだなと思う。それは今回この本を読んだ感想そのままである。

それにしても...
宇仁菅書店の書棚はすごいなと。
わたし個人のこととはいえ、この数か月、思い起こすことが多くてびっくりしている。
あの書棚には様々な仕掛けがあったにちがいない。


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gillman

ぼくも本のタイトルに「猫」と入っているとつい買ってしまいますね。
by gillman (2012-09-10 14:37) 

鯉三

gillmanさん:
そう、反応してしまいますよね。でも、いわゆる猫本みたいなものは、あまり買わないんですが。
by 鯉三 (2012-09-13 23:09) 

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